紙飛行機文庫 <紙飛行機ドットコム>

伊坂幸太郎さんの作品に惹かれて、伊坂幸太郎さんのファンになりました。伊坂幸太郎さんの、最新刊から文庫本まで読み、感想やあらすじなどを書いています。

サブマリン <伊坂幸太郎さん>

2016年4月6日「サブマリン」を読みました。

 感想 <サブマリン> 表紙のこと

表紙を見たときに感じました。
「チルドレン」は青い空の色、「サブマリン」は輝く太陽の色。
「サブマリン」を読む前は、そんなイメージの色使いなのかなと思っていました。
少年が出てくるお話なので、そう想像したのかもしれません。

でも、「サブマリン」を読み終えた今、その想像が変化しました。
太陽の色ではなく、みかんの色じゃないかなと。
武藤の妻が言ったひとことが、すごく印象に残りました。

「みかんのいい匂い」と独り言のように洩らした。
(P248)

武藤が入院している時に、小山田俊が見舞いにみかんを持ってきます。
小山田俊は武藤に話したいことがあるのです。
最後に陣内さんのことにふれます。

少し酸っぱさが残りつつも甘いみかんは、食べ始めると、もうひとつ、もうひとつと手が出ます。
それは、陣内さんに似ているのかもしれません。

 

 

 感想 <サブマリン> タイトルのこと

タイトルの「サブマリン」を直訳すると潜水艦ですよね。

「どうすればいいんです、武藤さん、俺」
と、若林青年の苦悩する姿が描かれた場面があります。
(P211)

若林青年が少年のときに起した事故は、十年経っても消えることがなく、潜水艦のごとく、視野の外に潜んでいて、ことあるたびに急浮上して若林青年に襲い掛ると、あります。

また、陣内さんはこのようなことも言っています。
(P98)
「時間が和らげない悲しみなどない。が、悲しみはゼロにはならない」

どれだけ時間が経過しても、忘れることができないことがある。
記憶や悲しみが、時間の経過とともに薄れたとしても、それは水中に潜っていて見えないだけであり、消えているわけではない。
何かのきっかけで、突然、姿を現し、激突してくる。

そういうイメージのタイトルなのかなと想いをめぐらしました。

 

 

 

 感想 <サブマリン> 三人の少年のこと

「サブマリンは」家裁調査官の武藤が語る形で物語が進みます。
その武藤の上司である陣内と、陣内が仕事上で関わる少年、および元少年が三人登場します。
それぞれの少年たちが登場する最後の場面には、陣内への想いが描かれていることが印象的でした。
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◆棚岡 佑真
「絶対、漫画、読ませてやろうと思っていたんじゃないかな」
と陣内さんの気持ちを武藤が想像したのに対して。
「あの人、馬鹿なんじゃないですか」と震える声で言った。  

(P258)
     
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◆小山田 旬
「友達が遊びに来ているんだろうが」と言った陣内さんに対して。
「何だろうね、あの人」と言う声はわずかに震えていた。   

(P248)
     
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◆若林青年
「おまえみたいなのもいるからな」と言う陣内さんに対して。
ぱっと顔を上げた彼の目は赤かった。            

(P267)

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破天荒で、面倒臭がりで、負けず嫌いで、変なことにこだわり、無茶ばかりで、自信満々で何でもできるような態度で、はた迷惑な陣内さんですが、彼の行動や発する言葉に、少年たちは救われる想いがあるのでしょうね。

伊坂幸太郎さんの「重力ピエロ」の中に、こんな言葉があります。
『本当に深刻なことは、陽気に伝えるべきなんだよ』
もしかしたら、陣内さんの言葉も、これに通じるものがあるのかもしれません。
一見、無茶苦茶なことを言っているような陣内さんですが、実はそれは真実をついていて、少年たちの心に突き刺さるのでしょう。
「チルドレン」の中に、陣内さんがこういう言葉を発しています。
『俺たちは奇跡を起こすんだ』

まさに、「サブマリン」の中でも陣内さんは奇跡を起こす仕事をしているようです。

 

 

 

 感想 <サブマリン> 家族のこと

武藤が優子さんに「陣内さんって何なんですか」とたずねる場面があります。
(P218)
「恋人とかいないんですかね?」と訊くと優子さんが言います。
「陣内君は結構もてるんだよ、これが」と。
夫の永瀬さんも「そうだね、陣内はもてる」と言います。
でも、「サブマリン」の中に陣内さんの恋人や家族がいる様子は一切描かれていません。

一方で、武藤が家族を愛している場面は出てきます。
武藤が男に刺される場面では、武藤は家族のことを思い浮かべています。
「今、僕がいなくなったら、家族はどうなってしまうのか」
(P230)


また、家裁調査官なので少年事件を扱うため、もし、自分の子どもが・・・・との想像をする場面もあります。
(P40)

 

もし家族がいたら・・・・
その家族が少年事件に巻き込まれたら・・・・
あるいは、家族が加害者になったら・・・・
陣内さんは、そう考えているのでしょうか。
「仕事が恋人なんだよ」と本気とも冗談ともとれる言い方をしています。
 (P218)

 

仕事が恋人というより、家裁にやってくる少年たちを、自分の家族だと思っているのかもしれません。
「面倒臭せえ」が口癖ではあるけれど、少年たちが青年になっても面倒見がいいですものね。

 

 

 

 感想 <サブマリン> 表現・描写のこと

最初にこの「サブマリン」を読んだとき、すごい!と感激したのが、チャールズ・ミンガスのCDを聴く場面でした。
(P80~P81)

 

永瀬夫妻の家で、武藤は初めてこの音楽にふれます。
その時の感動を描写しているのですが、これがすごいです。
文才のない、単純なわたしなら「素敵な音楽」との5文字でしか表現することができません。
ところが、伊坂幸太郎さんにかかると、その音楽の素敵さを2ページにもわたって表現してくれるのです。
5文字の「素敵な音楽」だけでは伝わらないものが、何十倍、何百倍にもなって伝わります。
すごいですねぇ。
まるで、本を読みながら、音楽が聞こえてくるようです。

この物語は少年事件を扱っています。

「どうして、駄目なんだ。おかしいじゃないか。説明しろよ」
そう言われても説明することができない。
(P164)

 

肯定してあげたい気持ちもあるが、やっぱりできない。
(P213)

 

「法律を守ってる奴が全員、いい奴か?」
(P246)

この小説には、いろいろな問いかけがあります。
そして「説明できない」「わからない」と答えるしかない場面が多いのです。
単純に正義と悪の二つに分けることができないからでしょうね。
それを表現するかのように、描写がすごく丁寧な場面が多いと感じました。
チャールズ・ミンガスのCDの場面が、それを一番強く感じたのですが、他にもいろいろとありました。


単純な言葉だけでは伝わらないものを、丁寧な言葉で描写することで読者へ伝える。
それは、陣内さんの少年への関わり方に似ているように思いました。

 

あらすじ <サブマリン>

「チルドレン」単行本 2004年5月
「チルドレン」文庫本 2007年5月
「サブマリン」は「チルドレン」の続編です。
講談社 > サブマリン特集ページ・スペシャルインタビュー 伊坂幸太郎 

 

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家裁調査官・武藤は、無免許運転で人身事故、しかも被害者は死亡、という事件の少年を担当します。
武藤の上司・陣内の破天荒ぶりは、少年たちの心を開くきっかけになっているのかもしれません。
ラストシーンでかかってきた電話は、元少年の心を前向きにしてくれるものであってほしいです。

答えのない問題に、答えを探す、考える、想像をする。
すべての人に希望がみえるといいな、そう思うお話です。

 

 

旧「紙飛行機文庫」に書いた「サブマリン」の感想はこちらです。

 

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単行本  サブマリン

出版社  講談社 
発売日  2016年3月29日

 

 

文庫本  サブマリン (講談社文庫)

出版社  講談社 
発売日  2018年4月16日