2013年8月10日「死神の浮力」を読みました。
感想 <死神の浮力>
エピローグは、僕・山野辺が語る形で始まる。
次の章「一日目」は、私・死神の千葉が語る。
その後「二日目」から「七日目」まで、僕と私が交互に語るという形で話は進む。
死神の千葉が山野辺を調査する七日間の物語だ。
日数にすると、たった七日間のことなのに、いろんな出来事がある上に、山野辺の父の思い出も語られたりして、もっと長い期間の物語のように感じた。
死神の話であるので、もちろん「死」を扱う物語だ。
胸をしめつけられるような思いをさせられる場面もある。残酷な場面もある。
その中で、千葉の言動は、くすっと笑わせてくれ、場を和ませてくれる。
死神だというのに、天使のようでもある存在だ。
参勤交代や大名行列、床屋のサインポールなど、雑学の知識が増えるような千葉の話も面白かった。
そして、最後のエピローグは、僕でも私でもない、牧田という男が語る章になる。
千葉が山野辺を調査した七日間から10年以上がたった時の話だ。
「ぽつりぽつりと雨が落ちはじめた」・・・・その男が千葉である証拠だ。
千葉と山野辺の妻との再会の場面となる。
いや、千葉も山野辺の妻も、お互いにそれを認識したとは書かれていない。
でも、きっとわかったはず、思い出したはずだ、
といううれしい余韻を残してくれてこの物語は終わる。
あたたかいものがこみ上げてくる最後、この瞬間を味わうために、436ページを読んだのだと思う。
この「死神の浮力」は、「死神の精度」の続編です。
たぶん、「死神の精度」を読んでいなくても、楽しめる小説だと思うけど、「死神の精度」を読んでから「死神の浮力」を読んだ方がより愉しめると思います。
さらに言えば、伊坂さんの小説をたくさん読んでいる人の方が、もっと愉しめると思います。
今までの伊坂さんの小説を彷彿させる登場人物や言葉が出てくるので、これは、伊坂さんのファンへ対する贈り物かもしれません。
ありがとうございます、伊坂幸太郎様。
あらすじ <死神の浮力>
サイコパスと呼ばれる、良心のない人間は、25人に1人の割合でいると言われている。
その25人に1人であると思われる本城崇に、山野辺夫妻の娘は殺された。
本城は、「自分の名前を相手に刻み込みたい性格なんです。決して忘れられない印象を残したい」
と千葉に言ったことがある。そのために、人の命を奪うこともあるのだ。
しかし、サイコパスである本城の最終目的は、人を殺害することではない。
それによって、苦しむ人を見て、あざ笑うことにある。まさに良心のない人間である。
その本城について千葉はこう語る。
「本城が自分の名前にこだわっているのも、突き詰めれば『死』を知っているからかもしれない。死んで忘れられることへの恐怖だ。屈辱と言うべきか。自分が誰なのか、誰もが忘れられないようにしたいんだ。名を残す、ということか。」
娘を殺された山野辺夫妻は、本城に復讐することにエネルギーもお金も注ぐ。
その山野辺(夫)の調査にやってきたのが死神・千葉である。
千葉は、調査をしている七日間、山野辺夫妻の復讐行動に協力する形となる。
一方で、サイコパス・本城を、死神・香川が調査をしていた。
千葉と香川、調査結果は「可」なのか、「見送り」なのか。
残酷と優しさ、非道と正道、冷淡と親切、荒っぽさと温かさ。
対極するものが織り交ざったラストは、25人のうち24人のサイコパス以外の者の人間らしさにホッとする。
旧「紙飛行機文庫」に書いた「死神の浮力」の感想はこちらです。
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単行本 死神の浮力
出版社 文藝春秋
発売日 2013年07月30日
文庫本 死神の浮力 (文春文庫)
出版社 文藝春秋
発売日 2016年7月8日